【まとめ記事】2年で理想的なDXをした南知多の組織改革とは
「どうした?南知多?」
これは自治体DXを始めた時の役場職員からの一言だ。
昨今、企業や自治体のDX推進が叫ばれている中で、
「正直どうすればいいのかよくわからない。」
「いますぐに取り掛かるほど必要性を感じない。」
と、このように感じるのが本音ではないだろうか?
これからこの記事で紹介するのは、愛知県の南部にある南知多町で実際に行われた自治体DXについてだ。
南知多町はこの取り組みによって以下のような成果を得ることができた。
プロジェクトリーダーの育成に成功した
町長が示す地域経営の方向性が職員に浸透した
町長に職員の声が伝わり、取り入れてもらえるようになった
オフィスカジュアル化に成功した
ふるさと納税プロジェクトを推進できた
会計年度任用職員のレンタル制度ができた
グッジョブなどを通じて職員も考えが変わり、町長も考えを変えていき、信頼関係ができた結果、町長の「日本一働きやすい町」を目指したマニフェストができた
本記事では、愛知県にある南知多町のDX事例を元に、自治体DXの実態についてご紹介していく。
南知多町は、日本の多くの地方自治体、地域が抱えているのと同様に、存続の危機にあった。幸いなことに、「今すぐに動かないといけない」ということに気づき、行動でき、結果として、他の市区町村に勝って生き残るための競争をするための下準備である組織改革を成功させた。
そして今、南知多町は予算を増やすこと、予算を使わないことの2本柱で、南知多が存続し続けるための取り組みを本格的に始めた。
この記事を読めば、自治体DXの「実際」が手に取るようにわかるだろう。是非最後まで読み進めていただきたい。
1.自治体DXとは
まず南知多がどのようにDXしたのかを説明する前に、自治体DXについての認識を揃えていく。
自治体DXを推進する際は、以下の3つを到達目標として考えることができる。
1.総務省が推進する デジタル化への対応
2.自治体が進めたい、職場内のデジタル化
3.他の市区町村に勝つための行政施策の検討と実施段階でのデジタル活用
出典:Beth合同会社「自治体DX基礎ガイド|総務省の推進計画から紐解くやるべきこと6つ」
ただし、自治体DXでは必ずこの3つを目標にしないといけないわけではない。1は必ず取り組まなければいけないものだが、2、3については各自治体次第となる。1と2または1と3の組み合わせで終わってもいいし、1.2.3.すべてを目標としてもいい。3つのうちどれに取り組むかについては、各自治体で話し合う必要がある。
それでは3つの到達目標の内容について触れていこう。
まず「1.総務省が推進するデジタル化への対応」とは、マイナンバーカードの普及促進などだ。具体的には、以下のようなものがある。
上記のことは、どの自治体も最低限必ず行わなければいけないこととされている。
総務省が推進するデジタル化への対応が完了した自治体は、次の段階に進むこととなるが、ここからは強制されるものではない。将来生き残りたいと思う自治体が、自らの意思によって進んでいくこととなる。
「2.自治体が進めたい、職場内のデジタル化」では、競争するための時間と人員を作るために、必要な職場内のデジタル化や組織改革を進める。
これによって他の自治体と競争するための時間と人員を確保できたら、「3.他の市区町村に勝つための行政施策の検討と実施段階でのデジタル活用」を進める。
本記事でご紹介する愛知県南知多町の事例は、
3.他の市区町村に勝つための行政施策の検討と実施段階でのデジタル活用
に該当する内容になっている。
具体的にイメージするために、ぜひ読み進めてほしい。
2.南知多の自治体DX成功事例
それでは早速、南知多が行った自治体DXについて具体的に紹介していく。
この章では、南知多町が実際に行った自治体DXについて、以下の流れでお伝えしていこう。
南知多町が行った自治体DXの概要(全体像)
競争するための準備として行ったこと
・他の市区町村に勝つために行ったこと
実際の自治体DX事例を把握して、自治体DXのイメージを鮮明にしてほしい。
2-1.南知多が行った自治体DXの概要(全体像)
愛知県南知多町は、日本の多くの市町村で問題となっているのと同様に、人口減少などの問題を抱えている町だ。具体的には、以下のような問題に直面していた。
60年間人口が1人も増えていない
税収が減少しこのままでは職員の数を維持できない
空き家率が愛知県ナンバーワン
そんな中、
「子供のために南知多という名前を残しい。」
「南知多がなくなったら友人に申し訳ない。」
という中堅職員の熱い想いのもとDXを推進することになった。
1.自治体DXとはでもお伝えしたとおり、自治体DXでは次の3つを到達目標とすることができ、そのうちどれに取り組むかは各自治体で決める。
1.総務省が推進するデジタル化への対応
2.自治体が進めたい、職場内のデジタル化
3.他の市区町村に勝つための行政施策の検討と実施段階でのデジタル活用
南知多町では、1と2と3に取り組んだが、3を1番大きな到達目標として自治体DXに取り組んだ。そこで本記事では、3の取り組みについて詳しくお伝えする。南知多が取り組んだ自治体DXの全体像は、以下の通りだ。
「縦割り行政を横断的に。」
南知多町がまず行ったのは、これまでの縦割り行政を、横断的にプロジェクトを動かせる組織に変えることだ。そうすることで、地域課題解消のために、自治体を超えてプロジェクトを動かせるようになることを目指して組織改革を行った。
組織改革は、最も大変なところだが、南知多では幸いにもここから着手することができた。これができたのは、小さい組織で小回りが効きやすかったからこそだろう。
また、南知多の組織改革では3つのプロジェクトを行ったが、これらのプロジェクトには並走してくれるアドバイザーの存在があった。副業人材として登用された、Beth合同会社の河上泰之氏だ。
<行財政マネジメント総合アドバイザー河上泰之氏のご紹介>
河上氏とともに進めたプロジェクトは、以下の通りである。
この4つのプロジェクトは全てキレイに成功したわけではない。
しかしプロジェクトを進める中で改善しながら、最終的には南知多では横断的にプロジェクトを動かす力を身につけることができたのだ。
その結果として他の市区町村に勝つための行政施策として
ふるさと納税
官民共創
のプロジェクトに注力する部署が誕生している。
それでは順に各プロジェクトでどのように推進したのかを詳しく解説していく。
2-2.競争するための準備として行ったこと
南知多町ではまず初めに、課長以上の管理職のプロジェクトマネージャーとしての能力を向上させるために、トップダウン型プロジェクトマネジメント能力の向上プロジェクトに取り組んだ。
なぜこのプロジェクトを実施したかというと、プロジェクトを進めることができない現実に直面したことがきっかけだった。
DX推進以前、南知多をよくするためのプロジェクトが4つ走っていたが、なかなかうまく進まなかったという経緯がある。そこで管理職のプロジェクトマネジメント能力を向上させれば、プロジェクトを円滑に進めることができるのではないかと考えたのだ。
管理職のプロジェクトマネジメント能力を向上させれば、地域課題を解消するために官民共創の取り組みにおける民間企業とのプロジェクト進行も円滑に進められるようになるとの目論見もあった。
このプロジェクトの最大の基盤は、行政マネジメント総合政策アドバイザーである河上氏の存在にある。
プロジェクトマネージャーの能力が向上すれば、部長課長が率先して動く組織を作ることができるとの考えのもと、Beth合同会社代表、河上泰之氏のアドバイスをうけながら、管理職のプロジェクトマネージャーとしての能力向上をはかった。
具体的には、部長級職員がトップに立ち、その下に課長級職員がついて、組織の内部をより効率化するための体制作りを目指した。その過程で生まれる疑問や不安に関して、いつでも河上氏に質問・相談ができるという最高の環境を整え臨んだトップダウン型プロジェクト。
しかし結果的に、明確な成果を残すことはできず、ボトムアップ型プロジェクトへシフトチェンジすることになったのだが、これが功を奏して南知多を大きく変えることとなった。
トップダウン型プロジェクトについてさらに詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
2-2-2.プロジェクト2:ボトムアップ型プロジェクトリーダー育成プロジェクト
「トップダウンよりもボトムアップの方が南知多ではあっているのではないだろうか?」
組織改革の方針転換を柔軟に受け入れた幹部職員のおかげもあり、南知多町の組織改革は係長以下の若手職員の中からプロジェクトリーダーを育成し、全庁をあげた日々の業務改善・事務改善の取り組みを進めるボトムアップ型プロジェクトリーダー育成プロジェクトが動き出した。
ボトムアップ型プロジェクトの柱となったのは、グッジョブ運動・グッジョブ大会という取り組みだ。
グッジョブ運動・グッジョブ大会とは、全庁から業務改善の提案を募集し、提案者には幹部へのプレゼン提案からプロジェクトの実行までの一連を行ってもらうというものである。
アイデアを募集した結果、26もの提案が寄せられ、そのほとんどが採用された。
グッジョブ運動の成果とも言える、寄せられた26の提案の一部をご紹介しよう。
<グッジョブ運動で寄せられた26の提案の一部を紹介>
電子申請システムを活用した申請業務及びアンケートの推進
みなみちたオフィス改革プロジェクト
ノーネクタイ等の働きやすい服装の通年実施(働き方改革)
おくやみパッケージの導入
公務員なりきりプロジェクトの改善提案
「思いやりの空席」の活用によるコロナ対策と窓口改善
エクセルを活用した電子決裁の試験的導入
ワクチン接種事務におけるAI-OCRの活用
ファイルサーバーの効率的な運用
ペーパーレスの推進
ICカード職員証導入による勤怠管理の効率化
苦情や問い合わせの見える化
時間外勤務及び休日勤務命令簿のデータ提出
職員の会計能力向上と財政改善議論の深化
若手職員モチベーションアップ
子育て支援策の拡充
正規職員補助業務の集約と会計年度任用職員の活用
町民会館図書室を中心とした町民の読書活動の推進
上記の提案のうち、5件は保留や撤退となっているが、21の提案については採用され、うち8つの提案については迅速に実施へと向かっていった。
案が採用された提案者たち自らがプロジェクト推進の責任者として任命され、プロジェクトを進めたが、そのスピード感もボトムアップ型プロジェクトで大きな成果を残せた要素の1つだといえるだろう。
スピード感は、以下のようなものだった。
グッジョブ運動が始まってから提案を制度として運用するまでの期間は、わずか3ヵ月。
プロジェクト責任者のほとんどが、過去にプロジェクトを自分で回した経験はないのにも関わらず、迅速なスピード感で自らやり切るという経験を積むこととなった。この経験自体も、このプロジェクトの大きな成果である。
ボトムアップ型プロジェクトについてさらに詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
2-2-3.プロジェクト3:首長戦略アドバイザー
ボトムアップ型プロジェクトを通して、ある程度大きなプロジェクトでも実行できる組織としてでき上がった南知多町。
「これから町としてどのような方向に進むのか?」
この点についてもっと明確に示せるようになれば、より強力に高い価値が出せる組織になれると考えた。
というのも当時、町長は町としての経営方針を明確にできず悩んでいた。町長の頭の中には、アイデアがたくさんあった。やりたいこともたくさんあり、もちろん意欲もあった。にもかかわらず、頭の中を整理して考えをまとめきれずにいたのだ。
その姿を見た中堅職員によって提案されたのが、前出の河上氏と町長が壁打ち的に話すことだった。町長が河上氏と話すことで頭の中を整理することができれば、より方向感が明確になり、南知多が大きく前進できると考えたのだ。
このような経緯から、3つ目のプロジェクトとして、河上氏を首長戦略アドバイザーに据えた。
首長戦略アドバイザー設置の目的をまとめると、以下の通りだ。
町長の頭の中の考えを整理するため
地域経営の方針について理想を議論して何を優先して進めていくのか取捨選択するため
主に上記の内容を目的に首長戦略アドバイザーを設置し、町長と河上氏が対話を繰り返した結果、以下のような成果を得ることができた。
町長自身の考えの整理が進んだ
地域経営の方向性が明確になった
現状と理想の差を埋めるための政策案の検討を進めることができるようになった
町長の考えが的確に示されることで、職員のやる気が高まった
町長の意見・考えをさらに多角的に広げることができた
町長の孤独感を解消できた
より鮮明に優先順位をつけて効率的にプロジェクトを実行できるようになった
目的達成のための手段ややり方を柔軟に動かせるマインドになった
「前例通り」から入るのではなくて、目的達成のために、逆算して考えることができるようになった
中でも最大の成果であり、全ての成果の根幹と言えるのは、町長の頭の中を整理することができたことだ。その結果、地域経営の方向性が明確になり、より鮮明に優先順位をつけて効率的にプロジェクトを実行できるようになった。
首長戦略アドバイザーについてさらに詳しくは、こちら の記事をご覧ください。
2-3.他の市区町村に勝つために始めたこと
トップダウン型プロジェクト、ボトムアップ型プロジェクト、首長戦略アドバイザープロジェクトを通して、内部の問題解消という意味で、南知多の組織体制はかなり整った。
つまり、内部の体制整備を終えて、他の市区町村との競争に勝ち生き残るためのフェーズに入ったということだ。
そこで、以下の発想で南知多が南知多として存続する道を模索した。
その結果、他の市町村に勝って存続するために、次の2つを柱におくこととした。
ふるさと納税事業
官民共創事業
それぞれの内容についてみていこう。
2-3-1.ふるさと納税事業
生き残りをかけた競争をはじめた南知多町がまず力を入れたのが、ふるさと納税プロジェクトだ。
南知多町のふるさと納税は、実は随分前からやっていたが、深い問題意識を持ってテコ入れができていなかった分野であった。しかし人口減少の中で財源を確保するために稼ぐ自治体になると決めて、力を入れることを町長自ら決断した。
ふるさと納税事業では、税収の増加のほか、以下のようなことも期待された。
南知多町を知ってもらえる
地場産業が盛り上がる
現在大きな成果はまだ出ていないものの、ふるさと納税寄付金額の目標を4億円と設定し、返礼品目の増加や高額商品の出品に向けて取り組んでいる最中だ。
ふるさと納税事業についてさらに詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
2-3-2.官民共創事業
予算を増やすことのみならず、予算を使わずにいかに課題を解消するかという動きも進んでいる。それが官民共創プロジェクトだ。
年々人口が減少し、財源確保がどんどん難しい状況になっているにも関わらず、地域課題が増え続けている南知多町。
特に深刻なのは空き家問題で、空き家率は愛知県で1番となっている。
そこで空き家問題解消を、官民共創事業で解決しようと考えた結果、民間企業と協力して空き家対策に使う税金や補助金を最小限に抑えることに成功した。
他にもさまざまな地域課題を、民間企業とWIN-WINな関係で協力して解消している。
官民共創事業についてさらに詳しくは、こちら の記事をご覧ください。
3.南知多が実際に感じた「自治体DXで期待できること」とは
自治体DXで期待できることとはなんだろうか?ここでは、南知多が実際に自治体DXを推進して感じたことについてお伝えしていこう。
南知多が実際に感じた「自治体DXで期待できること」は、以下の通りだ。
合併を避け、単独で存続し続けることができる
大きなプロジェクトも結果を出せるようになる
財政状況に合わせた地域課題の解消方法を模索することができる
机上の空論ではなく、実際の体験を元に感じたことなので、あなたの自治体でもリアルに期待できる内容となっている。
3-1.合併を避け、単独で存続し続けることができる
自治体DXは、自治体の名前がなくなることを避けるためや、自治体が消滅することを避けるため、合併を避けて単独で存続し続けるために推進する取り組みだ。
「自治体が自治体として存続し続けること」
この目的に向かって進んでいくこととなる。
南知多は、「南知多が南知多として存続し続けるため」に自治体DXを推進した。自治体DXを進めて成功するということは、目的である「南知多として存続し続ける」ための道を見つけられることを意味する。
つまり、自治体DXを本気で推進すれば、他の市町村に勝ち続け、近隣の市区町村に合併されることなく、単独で生き残ることが期待できるのだ。
3-2.大きなプロジェクトも結果を出せるようになる
南知多のように組織改革を行うと、縦割りが一般的である自治体でも横断的にプロジェクトを動かせるようになることが期待できる。
現に南知多でも一連のプロジェクトを通して、官民共創で空き家問題を解決したり、ふるさと納税の返礼品を増やすことなどに成功している。
これまで縦割りが一般的で、横断的にプロジェクトを動かす経験がなかった南知多だが、ボトムアップ型プロジェクトでグッジョブ運動を推進したことによって、部署を超えてプロジェクトを動かすノウハウや経験を得た。その結果、職員がより働きやすい環境が整い、内外で好評を得ている。
ただし、横断的にプロジェクトを動かした経験がない組織でプロジェクトを自ら動かせるようになることは容易ではない。そのような場合は、専門的なアドバイザーの設置をおすすめする。
また、組織改革で一番難しいのは、働いている人の心を変えることだが、南知多では熱い想いを持った中堅職員が率先して導いたことで、職員全員が組織改革をやり切った。南知多のように、リーダーシップをとって導いてくれる熱い想いを持った職員がいれば、あなたの自治体でも組織改革を成功させることができるのではないだろうか。
南知多を動かした中堅職員については、こちら の記事をご覧ください。
横断的にプロジェクトを動かすための取り組みについてさらに詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
3-3.財政状況に合わせた地域課題の解決方法を模索できる
自治体DXは、今後予測されている人口減少に伴う予算の減少に対応するための取り組みという側面が大きい。
南知多の場合は、予算がないなら稼げばいいし、予算がなくても地域課題を解消できるように働きかければいい、という選択をした。自分たちの自治体の状況に応じて、「自治体として生き残る」ためにできることをするのだ。
例えば南知多町では、予算がないからふるさと納税で稼ぐことに力を入れ、官民共創事業で予算がなくても地域課題を解消できる方法を確立した。
つまり自治体DXで通常業務以外のことができる時間や人員を確保できれば、自治体の将来のためにやるべきことを模索して行動することができるということだ。
3-4.職場環境を働きやすく整えることができる
自治体DXを推進すると、職場環境を働きやすく整えることができる。
業務をシステム前提で置き換えると、働きやすさを追求できるし、働くためのモチベーションを上げることもできる。自治体DXでは、生き残るために時間と人員に余裕を持てる組織作りが不可欠で、その過程で無駄なものが削られ、必要な制度ができ、自ずと職員が働きやすい環境になっていくと考えられる。
南知多の場合は、ボトムアップ型プロジェクトで行ったグッジョブ運動を通して、働き方改革が進み、若手職員の手によって職場環境がかなり変化した。
目に見える大きな変化としては、服装の変化があり、クールビズを超えてオフィスカジュアルで働きやすい服装で仕事ができる環境になった。
以下の画像、左が以前の南知多のスタイル、右がオフィスカジュアル後のスタイルだ。
職員からも町民からも好評を得ている。
南知多の働き方改革について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
4.南知多が自治体DXをやってみて「困難だと感じたこと」とは
実際に自治体DXをやってみた南知多町が、「大変だった」「難しかった」と感じたことにはどのようなことがあったのだろうか?
南知多が自治体DXをやってみて「困難だ」と感じたことには、以下のようなことがある。
職員に一時的に負担がかかる
それぞれの立場で感じること、考えることが違う場合がある
自治体の思いを必ずしも住民が理解してくれるとは限らない
そのような内容か、それぞれ見ていこう。
4-1.職員の一時的な負担は大きい
自治体DXは、推進しようと決めたからといって、スムーズに進むほど甘いものではない。
既存のものを変化させるわけだから、反対の声があったり、協力してくれない人がいたりすることも当然考えられる。
また、DX推進と並行して通常業務も行わないといけないため、物理的な職員の負担は大きい。南知多の職員の1人である岡崎さんは、グッジョブ運動で提案してプロジェクトを進めるにあたり、仕事量が増え、自宅に仕事を持ち帰らなければいけない時期があったという。過去のインタビューで、「周りの職員の助けと、家族の支えがあったからやり切ることができた」と語っていた。
※岡崎さんのインタビューはこちら
新しい取り組みを行うにあたっては、想定通りに進まないことも当然ある。南知多町では、トップダウン型プロジェクトがそうであったように、当初の想定通りに進まないこともあった。専門家をアドバイザーとして設置したにも関わらず、だ。これまで経験したことがないことを進めて成果を上げることは、とても難しいことだと実感した。
しかし南知多の場合は、そこで止まるのではなく、次どうするかについて考えることで、自治体DXを成功させた。
重要なのは、歩みを止めないということで、目的を達成するためにあの手この手と考えて進めることが大切だ。そのためにも、自治体DXを始める前に、目的意識をしっかり持つことが重要なことだと言えるだろう。
4-2.それぞれの立場で感じること、考えることが違う場合がある
自治体という組織の中で、1つのプロジェクトや物事に対して、全ての人が同じことを感じ、考えるということはあり得ないことだ。そのため、「こうして欲しい」「こうやってくれたら良いのに」という立場間の要望がうまく通らず、もどかしいこともあるだろう。
立場が変われば、見え方や考えなければいけないことも変わってくる。
南知多町では、さまざまな役職を経験したのち、現在副町長を勤めている高田氏が、トップダウン型プロジェクトの感想として、以下のように語っていたのが印象的だ。
「中間管理職の時はトップに決めて欲しいと思っていたが、トップになってみると、決められないものは決められないということがわかった。それぞれの立場で思うことがあるから、折衷案というか、時にはこれと決め切らないことも大事」
自治体DXのような大きな変化を遂げようとするときは、それぞれの立場を理解し合い、柔軟な考え方ができると、よりスムーズに進めることができると言えるのではないだろうか。
4-3.自治体の思いを必ずしも住民が理解してくれるとは限らない
自治体が強く存続を望んだり、100年後も存在し続けると意気込んだりしても、その思いが住民に届き理解されるとは限らない。
「お役所仕事」という言葉があるように、住民からすると疎ましく感じられることもあるだろう。
例えば南知多町では、ふるさと納税事業で住民の理解を得ることの難しさを感じる場面があった。ふるさと納税の返礼品の品目を増やしたいと考えて地元の事業者に出品をお願いしても、「役所のことだからめんどくさそう」といった感想をもたれ、話がなかなか進まないことがあったのだ。
ふるさと納税を盛り上げ、地場産業を盛り上げたいという自治体の思いに対して、地元の事業者の理解は簡単には得られなかった。このような点が自治体DXの難しいところだと、実体験として南知多の職員たちは語っている。
5.そもそもどうして自治体DXが必要なのか?自治体DXを進めないといけない理由
ここまで自治体DXについてお伝えしてきたが、そもそもどうして自治体DXが必要なのか、理解しきれていない人もいるのではないだろうか?
自治体DXが必要な理由を結論から言うと、他の地域との競争に勝たないと地名が残らないからだ。このことは、日本の人口減少と密接に関係している。
国土交通省の資料を見てみよう。
上の日本地図の紫の部分は、2050年に人口が現在の50%以下になる場所だ。
ご覧いただければわかる通り、東京、名古屋、大阪、仙台、福岡以外の地域は、人口が大幅に減少する。
当然住む人が少なくなれば、運営資金は少なくなり、今まで通りのやり方では自治体運営はできなくなる。つまり2050年には今の半分以下の人数でも自治体運営が出来る状態を作らなければならないということだ。
これは必要最低限であり、地域を残すためには、都市部への人口集中が加速するなかでも、
「この地域に住みたい!」
「この地域を会社の拠点にしたい!」
と思ってくれる人を増やす必要がある。
人が集まりにくい不便な地域になればなるほど、ますます人口が減少していくという負のスパイラルに陥ることがないように今変わらなければならないのだ。
これが地方に置かれるリアルな状況であり、こうならないために、地方の人口減少に対して本気で取り組まなければならない局面がもうすでにきている。
6.自分の自治体でDXを推進するべきかどうか判断する方法
今置かれている日本の地方自治体の現状についてお伝えしましたが、それでも自分の自治体でDXを行ったほうがいいのかどうか、決めかねている人は多いのではないだろうか?
いまだに自分ごととは思えていない人、危機的状況を信じきれていない人もいることと思う。
自分の自治体でDXを推進するべきか、判断する方法はとても簡単だ。
「存続の可能性を1日でも伸ばしたいかどうか」
これが答えだ。
もし自分の自治体の存続の可能性を1日でも伸ばしたいのであれば、いますぐDXに取り組むべきだと言えるだろう。
逆に、将来的に消滅しても構わない、流れに任せようという場合は、現状のままで問題ない。
また、合併を視野に入れている場合や、自分の自治体の名前を残すことを望まない場合は、またやることが変わってくる。
以下に当てはまる場合は、自治体DXの推進を強くおすすめする。
自治体を存続させたい
合併したくない
合併するとしても自分の自治体の名前は残したい
自分の自治体で働き続けたい
このように考えているのであれば、ここでお伝えした南知多のように、本気でDXに取り組むべきである。存続し続けるためには、他の自治体と戦って勝ち残るしか道はない。
7.まとめ
「子供のために南知多の名前を残したい」
「南知多がなくなったら友人に申し訳ない」
このように感じた職員の感情がきっかけとなり始まった南知多の自治体DX。
現在自治体DXの最終段階に入った南知多は、100年先も200年先も存続し続けるために、ふるさと納税事業で予算を確保し、官民共創事業で予算を使わずに地域課題を解決する道を模索し、前進し続けている。
ふるさと納税事業が今よりさらに盛り上がれば、南知多の知名度が上がったり、地場産業が盛り上がったりして、企業の誘致や観光客の誘致などを通して税収増加が期待できるだろう。
南知多という地域を愛し、南知多役場という職場を愛する職員たちの挑戦は、これから先も続いていく。