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南知多町と職員の強固な連携が生まれた意外な提案とは?|すべての準備が整った南知多

大成功に終わったボトムアップ型プロジェクトリーダーの育成プロジェクト。
 
グッジョブ運動という新しい取り組みに挑戦した結果、26もの提案が出され、そのほとんどが実施に向けて動いたことは、南知多にとって大きな前進であった。
 
このグッジョブ運動、実は想定外の大きな成果を残していた。
 
その成果とは、町長と職員の信頼関係の構築だ。

グッジョブ運動のある提案について、町長は大反対をしていた。しかし実際に提案が実行されると、意外にも町民からの反応は良く、職員からも好評であったことに町長も驚き、この出来事をきっかけに、町長と職員の信頼関係が構築されていくこととなった。
 
また、町長と職員の信頼関係をより強固なものにしたのが、ボトムアップ型プロジェクトリーダーの育成プロジェクトの次に行われたプロジェクト、首長戦略アドバイザープロジェクトである。
 
以前からアドバイスをもらっているBeth合同会社代表の河上泰之氏を首長戦略[1] [2] アドバイザーとして配置して、町長と意見交換を重ねることで、町長自身の考えについて整理が進み、地域経営の方向性が徐々に明確になってきた。

【南知多町の組織改革施策のうち、今回紹介するプロジェクト】

この記事では、町長と職員の間にはどのような考え方の違いがあったのか。
どうやって溝を埋めることができたのか。そして、首長戦略アドバイザーの設置によって、どのような成果が得られたのかについて、詳しくお伝えしていく。
 
南知多の組織進化が最終段階に入り、準備が整う様子がうかがえるので、ぜひ最後まで読み進めてほしい。

1.実は町長が職員のことを信頼するようになったきっかけは職員のオフィスカジュアル化案だった

3本目の記事でボトムアップ型プロジェクトについてお伝えしたと思うが、町長が職員を信頼するようになったきっかけは、グッジョブ運動で提案された「オフィスカジュアル化案」だった。
 
その一連の流れと、その後得られた結果について、以下の流れでお伝えしていこう。
 
・オフィスカジュアル化を通して町長の気持ちがどのように変化していったのか
・職員と町長の関係性の変化が現れたマニフェスト
 
この章を見れば、町長と職員の関係性の変化がどのように変化していったか、手に取るように実感してもらえるだろう。

1-1.町長が実はそうとう反対していた職場のオフィスカジュアル化

トップダウン型プロジェクトを経て、ボトムアップ型プロジェクトは順調に進んでいったが、実はグッジョブ運動の提案の中で、町長がかなり反対していた提案があった。
 
それが、オフィスカジュアル化案だ。
しかし結果からお伝えすると、オフィスカジュアル化の提案は採用され、元々スーツにワイシャツ、ネクタイが通常スタイルであった南知多の職員たちは、ポロシャツなどのカジュアルスタイルで日々の業務を行うようになった。
 
こちらが、オフィスカジュアル化案採用前と後の南知多町役場の様子だ。

<オフィスカジュアル化案採用前>
<オフィスカジュアル化案採用後>

写りの違いのせいもあるかもしれないが、オフィスカジュアル化案を採用した後の方が、職場の雰囲気が以前よりも軽やかに明るくなったように感じられる。
 
重要なことは、職員がカジュアル化を喜んでいるのはもちろんのこと、住民からも好評を得ていているということだ。
 
また、さまざまな自治体の求人情報を探してみたが、オフィスカジュアルを導入している自治体は、まだまだ少ないように見える。
 
メリットが多いオフィスカジュアル化案だが、町長はどうしてオフィスカジュアル化に反対だったのだろうか?
 
実は町長は、オフィスカジュアルとは対局にある、制服導入という考えを持っていた。確かに、オフィスカジュアル化にはメリットとデメリットがあるのは事実である。

<オフィスカジュアル化のメリット・デメリット>

制服を導入したい町長からすると、メリットよりデメリットが目についたことだろう。
 
しかし、オフィスカジュアル化案は採用されることとなった。
 
町長がオフィスカジュアルに反対する気持ちは変わらず、最後までオフィスカジュアル化に納得はしていなかったものの、渋々オフィスカジュアル化を受け入れることとなり、採用に至ったのだ。
 
オフィスカジュアル化導入後、町民に意見を聞くとかなり良好な反応が生まれた。
 
具体的には以下のような声をもらっている。

「今っぽくて良いじゃない。前は見てるだけで暑くなりだし、息苦しそうだったわ。さわやかで問題ないと思うわ。」

町長にとっては驚きだったのではないだろうか?
このことから「職員に信じて任せてみてもいいのではないか」という気持ちが町長の中で生まれていったという。反対する気持ちと成功した現実のギャップが大きいからこそ、生まれた信頼だったのかもしれない。
 
町長が職員の提案を受け入れる動きから、ボトムアップの提案を受け入れようという流れへと繋がって行った結果、町長が職員を信頼できるようになり、より強固な組織へと変化していく大きな一歩となったのだ。

1-2.フリーアドレス化も並行して実施された

1-1でオフィスカジュアル化前後の画像をご紹介したが、変化したのは服装だけではないことに気づいていただけただろうか?

<オフィスカジュアル化案採用前>
<オフィスカジュアル化案採用後>

グッジョブ運動の提案で、オフィスカジュアル化の他にも以下のようなことが行われた結果、新しいオフィスが出来上がった。
 
その提案は、以下の通りだ。

  • フリーアドレス

  • ペーパーレス化

フリーアドレスとは、個人が固定の席を持たず、ノートパソコンなどを活用して好きな場所で仕事をするワークスタイルのことだ。
 
フリーアドレス以前は、課長は独立した場所に座席を構えていたが、フリーアドレス後は同じ島で仕事をしている。
 
下の画像は、フリーアドレス前後の座席表だ。

<フリーアドレス前の座席表>
<フリーアドレス後の座席表>

フリーアドレスを実現するためには、書類などを電子化し、デスクに物を貯めない工夫が必要になるが、ちょうどグッジョブ運動の提案の中にペーパーレス化もあったため、フリーアドレスと並行して実現できた。
 
フリーアドレスとペーパーレスを進めたことで、見た目が綺麗になったし、書類の情報保護のチェックも簡単になった。
 
窓口業務もIT化で早くなって、受付スペースも広くなったことは町民にとっても大きなメリットだと言えるだろう。
 
ここからは余談だが、新しいオフィスの準備は、外部に委託するのではなく、職員みんなで協力して行ったという。
休日出勤をして掃除をしたり、机を職員たちで組み立てたりした。
 
電話の配線も、通常は業者に依頼するが、職員たち自らで行った。
工夫を重ね、できるだけコストを抑えつつ快適さを追求した様子は、想像するにイヤイヤではなく、とても楽しんでいたことが想像できる。
現にこのときの経験を笑顔で語ってくれた堤田氏の顔を見ているだけでこちらも自然と笑顔がこぼれたのだ。
 
この1件で感じていただきたいのは、とにかく動くということだ。
考える葦になるのではなく、今できるところから動きながら考える。
 
このスピード感とプロジェクトを実現しきるマインドセットはボトムアップ型プロジェクトを通じて得られたものが早速現れているようだ。

2.職員と町長の関係性はマニフェストにも現れた

実は以前の町長は職員に「本当に任せて大丈夫なのかな。」と感じていた。
 
誤解されないように、説明するが、町長は町のことが大好きだが、同じぐらい職員にも愛を注いでいた。
「本当に任せて大丈夫なのかな。」というのは、まさに親が子に対していつまでも心配に思う気持ち、そのものだ。
 
なので、仕事仲間として信頼していないとか関係性が悪いという話ではない。
自立しているにも関わらず、つい親心のような感覚で困らないようについあれこれ言ってしまうイメージだ。
 
話を戻すが、町長は町と職員に対して責任感と愛が強すぎるがゆえに、すべてを背負い込んでリードしていこうと考えていたのだ。
 
しかし自分が反対していたオフィスカジュアル化案が成功し、職員の切り口や発想こそが町を変えていくのだと考えが変わったのだ。
 
これは第4期のマニフェストにも現れている。
 
第4期マニフェストの内容は、役場が変わることで、町民のための政策を実現することを公言している内容だ。

【第4期南知多町のマニフェスト】

つまり、職員の着眼点や切り口、発想こそが南知多を変えていくので、選ばれた自分がリードするのではなく、みんなを支援することで南知多を変えようと訴えている。
 
このマニフェストの変化がどれだけすごいか、どうして関係性の変化の現れなのかを説明するために少し町長の経歴についてご紹介するが
 
石黒町長は以前、自ら会社を設立して代表取締を20年以上務めた、いわば叩き上げの経営者であり責任者だ。
責任感も人一倍強く、背負うタイプの人間だ。

そんな町長が、リードしていくのではなく、職員を支援することで南知多を変えようと決意したマニフェストは、1つの信念で凝り固まった宗教から離脱するくらいのインパクトと言っていい。
 
マニフェストの内容では、以下の4つのことを掲げている。

どれも南知多役場で働く職員に対する項目であり、南知多型新公共経営とし、役場が変わることで持続的に町を変えていくことを宣言する内容だ。
 
このマニフェストこそ、町長と職員の信頼関係が構築できた証と言ってもいいだろう。
 
自分のやりたい政策を実現するためには組織を支援する決意をしたからこそ、石黒町長の第4期マニフェストがこのような形になったのだ。

3.地域の方向性を相談する首長戦略アドバイザーの設置

首長戦略アドバイザーとして任命された河上 泰之氏

ご紹介
 
デザイン思考顧問業を展開するBeth合同会社社長と、日本語教育のSmart Japanese合同会社の社長を兼務。慶應義塾大学大学院SDM研究科を優秀賞で修了。日本IBM、デロイトトーマツコンサルティングにてデザイン思考の専門家として活躍。
 
■主な実績
・経産省・特許庁 I-OPEN SUPPORTER
・長野県官民連携共創推進パートナー
・三重県伊賀市DXアドバイザー(非常勤特別職)
・愛知県南知多町 町長相談役 兼 行財政マネジメント総合政策アドバイザーの現職として活躍する

町長と職員の信頼関係が強固になったことも手伝って、ある程度大きなプロジェクトでも実行できる組織としてでき上がった。
そうなると、次に重要となってくるのは、頭の部分、戦略だ。
 
そこで、南知多がこれからどのような方向に向かっていくのか、地域経営の方針について理想を議論して何を優先して進めていくのか取捨選択が必要なのだ。
そういった壁打ちのパートナーとして設置されたのが首長戦略アドバイザーだ。
 
この章では以下のことについてお伝えしていく。
 
・首長戦略アドバイザー設置の狙い
・首長戦略アドバイザー設置の導入効果
 
町長が地域経営の方向性を明確にすることで、より組織が大きく動けるようになったことがお分かりいただけるだろう。

3-1.首長戦略アドバイザー設置の狙い

首長戦略アドバイザー設置の狙いは、ずばり戦略の整理と取捨選択だ
 
町長が考える地域経営の方向性についていくつかあった。
様々な意見を持つ町長に対して、戸惑っていた職員の声もある。
 
「これまで町長がさまざまな戦略や意見を伝えてくれていたが、職員からすると、業務指示なのかアイデアなのかわからないような指示が降ってくる感覚があった。」
 
このように語る職員もいたという。
 
そこで南知多では、以前より南知多の組織改革でサポートしていただいていた河上氏に首長戦略アドバイザーとして、町長の相談役をお願いした。
 
町長と河上氏との相談内容を記す事は流石にできないが、町長からは
 
「飛蚊症のようにいろんなアイディアがわーっと飛んでいるんですわ。それを整理したい。」
 
と頭の中に無数に散らばって収集がつかなくなっていた考えを町長が河上氏に伝え、それを受けて河上さんが整理すると言う作業が行われたのだ。
 
また、町長が1つ意見を伝えると、河上氏から2つ3つと違う視点からさまざまな提案をもらうことができたのも、町長にとっては嬉しいことだった。
 
町長の頭の中に散らばっていたアイデアや思い、戦略など、さまざまな思考が、次々と整理されていったのだ。
首長戦略アドバイザーを設置したことで、議論ができ、かつ新しい選択肢をくれる存在ができた。
 
河上氏と共に、町長は南知多の方向性について議論し、決断できたことで、南知多町の進むべき方向性がグッと鮮明になっていった。

3-2.アドバイザー設置の導入成果

アドバイザーを設置したことで得られた成果を簡潔にまとめると、以下の通りだ。

  • 町長自身の考えの整理が進んだ

  • 地域経営の方向性が明確になった

  • 現状と理想の差を埋めるための政策案の検討を進めることができるようになった

  • 町長の考えが的確に示されることで、職員のやる気が高まった

  • 町長の意見・考えをさらに多角的に広げることができた

  • 町長の孤独感を解消できた

  • より鮮明に優先順位をつけて効率的にプロジェクトを実行できるようになった

  • 目的達成のための手段ややり方を柔軟に動かせるマインドになった

  • 「前例通り」から入るのではなくて、目的達成のために、逆算して考えることができるようになった

中でも最大の成果であり、全ての成果の根幹と言えるのは、町長の頭の中を整理することができたことだ。
 
これまで、壁打ち的に町長と政策を議論できる人がいなかった中で、町長と河上氏を繋げたところ、意気揚々と自分の思いを全部ぶちまけて、河上氏に整理してもらうことができた。また、自分の中で自分のアイデアを1つずつ腹落ちさせていきながら頭の中を整理する時間ができた。
 
町長が河上氏に自分の考えや思いを話した結果、色々な戦略や我慢していた気持ちが出てきて、町長自身もどうしていいかわからなかった考えや感情を整理することもできたという。
 
河上氏と町長の意見交換を重ねるごとに、町長自身の考えについて整理が進んだ結果、地域経営の方向性が明確になり、より鮮明に優先順位をつけて効率的にプロジェクトを実行できるようになった。

また、目的達成のための手段ややり方を柔軟に動かせるマインドになったことで、「前例通り」から入るのではなくて、目的達成のために、逆算して考えることができるようになっていき、より大きくプロジェクトを動かせるようになっていったのは、南知多の一連のプロジェクトを通しての大きな成果だと言えるだろう。

4.地域課題を解決する下準備が整った南知多

海の幸で有名な南知多の漁船が一斉に出発していく様子

管理能力やプロジェクトを進めることに対しては、これまでのプロジェクトである程度経験を積んできた南知多町の職員たち。
 
ここで終わりではない、あくまでも目的は南知多を存続させることであり、地域課題の解決の出発点である。

トップダウン型プロジェクト、ボトムアップ型プロジェクト、首長戦略アドバイザープロジェクトを通して、内部の問題解消という意味で、南知多の組織体制はかなり整いつつある。
 
ということはつまり、内部の体制整備を終えて、他の市区町村との競争に勝ち生き残るためのフェーズに入ったのだ。
 
もう少しわかりやすく言うと、南知多が存続するために、役場の業務は少人数でも円滑に進める体制ができたので、ここからは稼げる自治体になることに注力する時がやってきた。ということだ。
 
稼げる自治体になるためには、人口を増やしたり、大きな法人を誘致したりして税収を増やすことが考えられる。税収を増やすという意味では、ふるさと納税の税額を増やすことも有効だ。
 
南知多町は、首長戦略アドバイザー設置プロジェクト終了後、さっそく南知多町が南知多町として存続し続けるために動き出していた。
 
ふるさと納税寄付金額日本一の泉佐野市に視察に行くなど、競争に勝つための動きをしはじめていたのだ。
 
次の記事では、南知多が存続するために、具体的にどのようなことを検討していて、どのように進めているのかについて、お伝えしていく。次の記事を読めば、南知多がどのように変わってどのように成長していったのかを感じられるので、ぜひ読み進めてほしい。


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本連載は、日本中の全ての自治体職員のみなさんと、支えていただける全ての方々にとって勇気が出る1つの事例となることを願い、作成しています