見出し画像

横断的に調整するプロジェクトリーダーの誕生|南知多を変えたボトムアップ型プロジェクト推進とは

前回の記事で紹介したトップダウン型マネジメント能力向上プロジェクトの結果は、期待していたものに繋がらなかった。

この時、外部の河上氏を登用したにも関わらず、その機会を十分に生かすことができず、知識やノウハウの吸収ができないことに、南知多は悩んでいた。

トップダウン型プロジェクトについて振り返ったところ、幹部職員陣はプロジェクトを進めるというよりも、最高意思決定機関として位置付けていたので、組織として幹部が動くのではなくて、下の者がプロジェクトに責任を持って動く方が南知多には合っているのではないかという考えに、全庁合意が取れた。 

これがトップダウン型プロジェクトから得た成果と言っていいだろう。

そして結果としてこの判断が、南知多が組織改革に成功していく大きなターニングポイントとなった。

【南知多町の組織改革施策のうち、今回紹介するプロジェクト】

ボトムアップ型プロジェクトリーダーの育成プロジェクトは成功し、期待以上の結果を得ることができ、若手のプロジェクトリーダーの能力向上という成果を得ることができた。
 
組織改革初期で初めから結果がでるなんてことはほぼありえない。
万年一回戦敗退の野球チームが次の大会では甲子園に出場する。なんてことはドラマでもなかなか無いのではないでしょうか?
 
何事も大事なのは失敗から何を学び、何を改善したのか。
 
この記事では、南知多町が組織改革の転換点となったボトムアップ型プロジェクトリーダーの育成について、詳しくお伝えしていく。
 
プロジェクトを進める側と参加する側のリアルな声を包み隠さずお伝えしていくので、いままさに組織改革で苦しんでいる人にはぜひ最後まで読んでほしい。

1.ボトムアップ型プロジェクトリーダーの育成とは

係長以下の職員を対象とした「ボトムアップ型プロジェクトリーダーの育成」プロジェクト」。

このプロジェクトは、一体どのような概要で、どのような結果になったのかだろうか?

この章では、プロジェクトの概要と進捗状況や成果、課題についてお伝えしていこう。

1-1.ボトムアップ型プロジェクトリーダー育成プロジェクトとは

ボトムアップ型プロジェクトリーダー育成プロジェクトは、係長以下の若手職員をプロジェクトリーダーに育成し、全庁をあげた日々の業務改善・事務改善の取り組みを推奨するものだ。
 
若手職員には関係者を巻き込み、横断的に調整するプロジェクトリーダーとしての能力が開花することを期待していた。
 
というのも現場に目を向けると「あれを変えたほうがいい」「これをこうした方がいい」というアイディアは既にあったが、上に伝える手段がなく機能していなかった。ということは、下からの提案を上に通す仕組みがあればうまくできるのではないかという仮説ができた。

そこで次に構えたのが、「係長以下の職員からのボトムアップ型プロジェクトリーダーの育成プロジェクト」だ。
 
この育成計画を支えたのが、「グッジョブ運動」と称した業務改善アイディアのプレゼン大会である。
当時の企画政策係長であり担当者の奥村氏が、愛知県に出向した際の経験からのアイディアであった。
 
全庁から業務改善の提案を募集し、提案者には幹部へのプレゼン提案からプロジェクトの実行までの一連を行ってもらうというものだ。
 
奥村氏が愛知県の市町村課に出向した際の経験をベースに、南知多は独自に以下のようなアレンジを加えた。

  • 部署単位の改善案ではなく、南知多全体が良くなる改善案を募集した

  • 集めたアイディアはすべて採用し実行する前提で募集を開始した

それだけではなく、取り組みがスムーズに進むように、奥村氏がさまざまな画策や根回しをするなど泥臭い努力もあったのは事実だ。
本人は否定しているが、以下が奥村氏が実際に行ったアイディアや努力だ。

  • 各種スタッフに自らアイディアを提供した

  • 匿名提出をOKにした

  • 18人の課長と4人の部長と3役の合計25人の幹部職員に直接説明して時間を押さえた

  • 若手からの相談も一手に引き受けた

  • アイディアがありそうな人の情報収集をして直接声をかけた

これらの動きを奥村氏が丁寧に、全て対面で行ったからこそ、初めての取り組みであったにも関わらず、グッジョブ運動は円滑に進んだ。
メールで一括送信ではなく、直接交渉したことによって心が動かされた職員は数名いるだろう。
 
「業務を担当している職員の提案が賞賛されるものであってほしい」
 
奥村氏の願いのもと、グッジョブ運動は大成功を収めることとなる。
合計26もの提案が寄せられ、そのほとんどが採用されたのだ。
 
また、グッジョブ運動の提案者たちは自らがプロジェクト推進の責任者として任命され、自らでやり切るという経験を積むことができた。

ここまでが、ボトムアップ型プロジェクトリーダー育成プロジェクトの大きな概要だ。
 
ではなぜこのプロジェクトが南知多を大きく変えることができたのか?
次章以降で詳しく解説していこう。

1-2.南知多のターニングポイントとなったボトムアップ型プロジェクト

ボトムアップ型のプロジェクトがなぜここまで南知多に大きな影響を与えたのか?
 
それは責任者が最後までやりきらなければ成立しない方法だからだ。
 
これまでは部署毎に縦割りのトップダウン式の組織体制だったので、何か新しいことをする場合は上からの指示、言い方は悪いがいわば業務命令となる。
反論の余地がないのだ。
 
反対にボトムアップは構図的には下から上なので、断ろうと思えば簡単に断ることができる。プロジェクトのメリット・デメリットや費用対効果をきちんと分析し、交渉を行うという高度なスキルが求められる。
 
もちろん若手の職員にとっては初めての経験であり、それが大変なことは容易に想像できるだろう。
実はこのタイミングで河上氏から若手職員に向けて、こんな質問がされたのだ。

「あなたが今しようとしているプロジェクトの協力者が0人になっても、1人でやり切る覚悟はありますか?」

これこそが南知多のターニングポイントになった瞬間だろう。

実際にこの言葉を言われて、覚悟を決められる人間の方が少ないと思う。
しかし覚悟を決めた人間こそ、何かを変えられるのだと改めて実感している。
 
ボトムアップ型プロジェクトリーダーの育成プロジェクトは、結果として多くの人、組織全体、仕組みなどに影響を及ぼした。グッジョブ運動に参加した人はもちろん、全庁の職員や町長にまで、影響は及んだ。
 
具体的に成果をまとめると、以下の通りだ。

<日々の業務改善>
・日々の業務を効率化し改善できた
・現場の不満や悩みを解決できた
・より効率よく現場が回るように仕組みを変えることができた
・働きやすい職場を作ることに貢献した

<プロジェクトリーダーの育成>
・政策立案能力の習得・向上ができた
・資料作成能力の習得・向上ができた
・プレゼン能力の習得・向上ができた
・横断的に連携する能力の習得・向上ができた
 
<職員の意識の変化>
・新たな提案をしてみようというマインドを育成できた
・自主的に工夫・改善をするマインドを育成できた
・新たな取り組みに対して積極的に学ぶマインドを育成できた
・お互いに協力し合うマインドを育成できた

<その他>
・南知多の職員の素晴らしさ、優しさを再認識できた
・自ら発信する文化ができた
・自分が提案した取り組みが活用されて役に立つ喜びを感じることができた
・仕組みや役場の雰囲気が変わっていくことを肌で感じることができた
・町長と職員の信頼関係が強固になった
 
これだけ幅広く、目にみえる数多くの成果を上げることができたボトムアップ型プロジェクトリーダーの育成プロジェクトが、南知多を大きく変えたことは間違いない。
 
ここで南知多の変化に驚く職員の談話をご紹介しよう。

「全然違う部署にいてグッジョブ運動には関わっていなかったけど、実証実験が始まってからは、南知多がどんどん変わっていくのを肌で感じることができました。」

グッジョブ運動の提案の1つである、会計年度任用職員のレンタル制度について、驚きの声もある。(制度の説明は3章でお伝えしている。)

「『人が欲しい業務がある』と呼びかけると、全ての部署が手を挙げてくるんです。びっくりするくらい。毎週のように、『会計年度任用職員さんの調整します。』って。年度末、年度初めに人手が欲しいので、堰を切ったかのように、みんながレンタル制度を使うようになりました。今となっては、なくてはならない馴染みの制度となりました。」

このように南知多では実用レベルの制度が作成され、業務改革が行われた。
いわば南知多の仕組みと環境を変えていったのだ。
 
そんな仕組みと環境に立ち向かった職員は合計7名いるのだが、今回はグッジョブ運動を提案した奥村氏と、会計年度任用職員のレンタル制度を提案した岡崎氏にインタビューを行った。
 
ぜひ包み隠さないリアルな現場の声を肌で感じてほしい。

2.グッジョブ運動の提案者:奥村氏

グッジョブ運動を提案し、担当者として進めた奥村氏。プロジェクトを推進する立場として、どのような思いや苦労、喜びがあったのだろうか。
 
奥村氏へのインタビューをお届けしよう。


インタビュアー:「まずは、グッジョブ運動を南知多町でやろうと思ったきっかけについてお話を聞かせてください。愛知県に出向している時からグッジョブ運動をやろうと決めていたんですか?」
 
奥村氏:「愛知県のグッジョブ大会を見学した時に、南知多でもやれたら面白いなと思いました。けど、絶対やるぞ!みたいな感じではなかったです。」
 
インタビュアー:「そうだったんですね。では実際に南知多でやろうと思ったのは、どのような流れからだったんですか?」

奥村氏:「トップダウンがうまくいかなかったから、グッジョブ運動をやったらどうかなという感じでした。堤田さんが苦しんでいるのを見ていたので、なにか助けになるんじゃないかなって思いつきました。」
 
インタビュアー:「グッジョブ運動を提案した時の周りの反応ってどうでしたか?」
 
奥村氏:「自分の上司に話したら、『やってみれば?』って感じでした。『いいじゃん』みたいな感じで。自分の上司にOKをもらって、そのまま町長まで上げていったって感じで、そんなに大変だったわけじゃないです。やってみればっていう雰囲気でした。」
 
インタビュアー:「では、グッジョブ運動を始めることを全庁に呼びかけた時の、職員の皆さんの反応はどうでしたか?」
 
奥村氏:「最初はよく分かってなかったんじゃないかな?(笑)何を出したらいいの?みたいな感じだったと思います。」
 
インタビュアー:「南知多にとって新たな取り組みであるグッジョブ運動は、はじめること自体が大変だったんじゃないかと思ったら、意外とスムーズに進んだんですね。」
 
奥村氏:「グッジョブ運動を始めるのはそんなに難しくはなかったんですけど、始めるにあたっては色々と試行錯誤して根回ししたりしました。実際にはじめてみても、提案があるかっていうのはやってみないとわからないので、その辺は色々と仕込んだり、色々頑張りましたよ。やるからには提案がないと成り立たないんで(笑)
自分で提案を作って、こんなの出してみて、みたいなこともしましたし(笑)あとは、匿名でもいいよとか。他人の取り組みを応募してもOK、みたいな感じで。やっている人を見つけて出してねって声をかけて回りました。」
 
インタビュアー:「そうですよね。それくらいしないとなかなか難しいですよね。企画の考え方やプレゼンの仕方も、奥村さんが教えたんですか?」

奥村氏:「違います。企画書の様式は、愛知県庁の様式を参考にして南知多町に合うように作り替えました。プレゼンの方法などは、河上さんに相談に乗ってもらいました。評価は幹部会がしたんですが、評価基準もうまくいくように自分で考えて調整しました。
あと26提案全てをプレゼンしたんじゃなくて、幹部が聞きたいと言った提案についてプレゼンしてもらって評価してもらう形を取ったのですが、プレゼンに落ちたからといって評価が悪いということではなくて。たまたま上がらなかっただけで、提案が破綻していなければやる前提で審査してくださいということは伝えていました。許可を出す前提で審査してくださいってことで。
これは河上さんにアドバイスをもらった上で取った方針で、デフォルト効果によって評価されないことを防ぐ意図です。だから26提案のほとんど全てが採用されました。」
 
インタビュアー:「ほとんど全ての提案が採用されたってすごいですね。」
 
奥村氏:グッジョブ運動の目的はプレゼンできるようになることだけじゃなくて、日々のアイディアから改善提案を取り入れることが目的だったんで、落とす前提で見ずに評価するっていうふうに伝えていました。それが目的だったんで。ただ、提案を出してもらうだけじゃつまらないんで、イベントにして大会をやったって感じです。」

インタビュアー:「新しい取り組みで、うまくいくために色々と動かれたとは思うんですが、全て想定通りに進んだんですか?」
 
奥村氏:「そうですね…想定通り…提案からプレゼンまでは想定通りに進みましたね。プレゼンは河上さんに事前に聞いてもらったりアドバイスをいただいたんで、すごくいいプレゼンができたんじゃないかなって思いますし。」
※前章でも述べたが、実は奥村氏は影で努力をしたことで想定どおり進んだ。苦労がなかったわけではない
 
インタビュアー:「採用された後に、提案した人がプロジェクトの担当者になるって感じですか?」
 
奥村氏:「そうです、そうです。グッジョブ運動での評価が終わって、提案者全員に集まってもらって、やってくださいってお願いしたんですけど、その時に河上さんと話をしてもらって。プロジェクトが始まっても随時河上さんが相談を受けてくれるんでって感じで提案者には伝えました。だから、ここから本当の意味でボトムアップ型プロジェクトリ

ーダーの育成がスタートしたって感じです。
 
インタビュアー:「なるほど!提案がプロジェクトとして動き出して、プロジェクトリーダー育成がスタートしたって感じなんですね!では、どの辺りからボトムアップ型プロジェクトリーダーの育成が成功しそうだなって感じていましたか?」
 
奥村氏:「そうですね。河上さんとのやり取りをしている人を見て、このプロジェクトが成功しそうだなって実感できました。実際、そこからどんどんプロジェクトが進んでいったんで。
 
インタビュアー:「具体的には河上さんとどのようなやり取りがあったのですか?」
 
奥村氏:「いや、具体的なやりとりというか…成功しそうだなって思えたきっかけは、熱量ですかね。提案者に河上さんとやりとりしてねって言えば来てくれたし、自分から来てくれた人もいたし。提案者と河上さんのやりとりの中で、『1人になってもやり切れるか』って質問があったんですけど、普通そんな風に聞かれたら、辞めますっていう人もいそうじゃないですか。でもみんな辞めなかったんですよ。」
 
インタビュアー:「成功しそうだなと確信できたのは、そのような提案者の姿勢を見てだったんですね。」
 
奥村:「そうですね。提案者から絶対成功させてやるんだという意志を感じられてってところですね。それぞれの提案者が、明確にやりたいという思いを持って提案していたってところですね。」
 
インタビュアー:「そうだったんですね。提案者の姿勢や意志も成功のポイントだったとは思いますが、全体を通して裏での奥村さんの動きが成功の鍵だったのかなっていう感じがします。奥村さん自身、どのようなモチベーションでこのグッジョブ運動に取り組んでいたのでしょうか?正直に言って、大変でしたか?」
 
奥村氏:「モチベーションというか(笑)楽しんでやっていただけです。提案を募集している期間は、どんだけ出てくるかっていうのが楽しかったし。プロジェクトが動き出してからは、南知多役場が変わっていくのが実感できて…とにかく楽しいって感じでしたね。


新しい取り組みで、さぞ苦労話がたくさん出てくると思って望んだインタビューだったが、「スムーズに進んだ」「楽しかった」という答えが返ってきたのは、正直意外だった。
 
もちろん、プロジェクトの成功には奥村氏の努力とセンス、人柄などが影響していたことは確かだが、プロジェクトの主催者として参加者のこと、幹部のこと、役場全体のことを親身に考えて取り組めば、新たな取り組みでも成功することが伝わってきた。このインタビューは、これから組織で新たな挑戦をしようとしている人の希望となりそうだ。

3.ボトムアップでプロジェクトを完遂した岡崎氏

グッジョブ大賞を受賞したときの岡崎氏

実際にグッジョブ運動に参加した人は、この取り組みをどのように見ていたのだろうか。
 
26の提案の1つ、会計年度任用職員のレンタル制度を提案した岡崎さんのインタビューをお届けする。

会計年度任用職員のレンタル制度とは?
会計年度任用職員※ は、従来、課や係ごとで雇い、雇った課や係だけでお仕事していただいていたが、それだと繁忙期は人手が足りず、閑散期は手が空いてしまうといったムダが発生していた。雇用した会計年度任用職員の方もやることがないと手持ち無沙汰で困る、といったことを見聞きしたことがきっかけとなり発想したものが、会計年度任用職員の方を一箇所に集約して役場全体として必要な時期だけ必要な人数を、希望する部署に人員配置できるようにした制度。特定の課と係でしか仕事を依頼できなかったが、他の課や係でもレンタルして活躍できるようにしたもの。
 
※会計年度任用職員とは業務繁忙期や職員に欠員が生じたときなどに、職員の補助として1会計年度内を任期として任用される非常勤の公務員のことです。

インタビュアー:「今回は育児休暇中にも関わらず、ありがとうございます。では早速、初めてグッジョブ運動の取り組みを聞いた時は、どう思ったか聞かせてください。」
 
岡崎氏:「聞いた時は率直に『どうした南知多』と思いました(笑)。とても驚きました。今まで上に自分の意見を届ける仕組みがなかったので。」
 
インタビュアー:「驚いたけど、結果的に提案しようと思ったのは、どうしてですか?」
 
岡崎氏:「そうですね…日々働く中で、「もっとこうしたいな」と思うことがあったけど、声を届ける仕組みがなかったので、これは新しいチャンスだと思いました。それまでは、実は町長にこうした方が良い!とアイディアを書いた手紙みたいなものを出してました(笑)今回はとりあえず出してみようと思って、軽い気持ちで2本提案を出してみました。」
 
インタビュアー:「2本のうちの1本が、会計年度任用職員のレンタル制度だったんですね。」
 
岡崎氏:「はい、そうです。」
 
インタビュアー:「会計年度任用職員のレンタル制度は前から考えていたんでしょうか?」
 
岡崎氏:「いえ、以前から考えていたわけではなくて。この提案は、会計年度任用職員と職員両方の声を聞いて、考えつきました。1年通して繁忙期と閑散期があって、閑散期に『手が空いちゃってどうしよう』という会計年度任用職員の声を聞いていました。会計年度任用職員は本当に能力がある人ばかりなので、もったいないなと私も思っていたんです。一方で、『応援を頼めたらな』という職員の声も聞いていました。これらの声をまとめて、会計年度任用職員にとっても職員にとってもメリットがあると考えて提案したのが、会計年度任用職員のレンタル制度です。
 
インタビュアー:「なるほど。すごくいい提案ですね!会計年度任用職員のレンタル制度の提案から実行までは、大変でしたか?」
 
岡崎氏:「すごく大変でした(笑)そもそも、グッジョブ運動の趣旨をあまり理解していなくて(笑)その後プロジェクトマネジメントまでするとは知らずに提案しました(笑)」
 
インタビュアー:「それは大変でしたね(笑)全てが大変だったとは思いますが、中でもどのような点が大変でしたか?」
 
岡崎氏:「プレゼンの準備とプロジェクトマネジメントの2段階で大変でした。プレゼンの準備に関しては、所属する課に迷惑をかけたくなかったので、家に持ち帰って準備を進めました。プロジェクトマネジメントの本を何度も読んだし、資料作りも大変でした。土日に仕事をする時間が増えて、主人の協力のおかげでなんとかやり切ることができました。」
 
インタビュアー:「家に持ち帰ってプレゼンの準備をしていたとは、大変でしたね。プロジェクトの実行に関してはどうでしたか?」
 
岡崎氏:「私は、保険年金室にいたのですが、通常業務と全然違うことをしないといけなくて、でも通常業務もしないといけないし。だから周りの人の理解を得ることからはじめました。私は本当にラッキーで、助けてくださった方、それから別の仕事をすることを許可してくれた所属課の皆さんには感謝しかありません。
 
インタビュアー:「お話を聞いていると、どれだけ大変だったかがとてもよく伝わってきますが、楽しかったとか、達成感があったとか、ありますか?もう1回やってって言われたらどうですか?(笑)」
 
岡崎氏:「達成感はないですね(笑)というのも、私はすぐに産休に入ってしまったので。でも、今日久しぶりに役場に来てみて、レンタル制度が活用されていることを聞いて、良かったって思いました。もう1回やりたいか…どうなんだろう(笑)えーどうなんだろう…変わっていく楽しさとかはあるんですけど、流石に大変だったので悩みますね(笑)」
 
インタビュアー:「達成感を感じる間もなく産休に入られたのですね。では、一連の流れで、得られたものってありますか?」
 
岡崎氏:「何かを得られたという感じはないのですが、役場の職員の皆さんの優しさを改めて感じました。頑張ればみんな応援してくれるし、意見をくださって、本当に感謝しています。あと、アドバイザーの河上さんとお話できたことは、他の視点から物事を見ることができて、私にとって貴重な体験となりました。」
 
インタビュアー:「最後に、同じような悩みを抱えている役場の人に対して、メッセージはありますか?」
 
岡崎氏:「メッセージなんてそんな(笑)私はそんなたいしたことはしていないんですが(笑)そうですね…南知多町は本当に小さな組織なので、やりたいって言いやすい組織だと思うんです。だから、小さい組織では、まず発信することが大事なのかなって思います。あと、助けてくれる人がいないとできないので、環境が大事だなって思います。特に、ボトムアップは、役場全体が意識を変えないと、こうゆうプロジェクトってできないと思いました。
 
インタビュアー:「なるほど。組織規模や職場の雰囲気的にも、南知多にはボトムアップ型プロジェクトがあっていたのかもしれませんね。今日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました!」


気軽な気持ちからはじまった岡崎さんの提案だったが、彼女を動かしたのは、身近な人が困っているのを助けたいという気持ちからだった。

会計年度任用制度の活用を前に産休に入った岡崎さんは、久しぶりにきた役場の雰囲気の変化に驚いていた。グッジョブ運動の結果取り入れられたオフィスカジュアル化で、Tシャツを着ている同僚にも感激していた様子だった。
 
南知多は短期間で変化を遂げているのは確かだと実感した。

4.グッジョブ運動の成果

ここで、グッジョ運動の成果とも言える、26の提案をご紹介しよう。
 
提案は、以下の通りだ。

  • 電子申請システムを活用した申請業務及びアンケートの推進

  • みなみちたオフィス改革プロジェクト

  • ノーネクタイ等の働きやすい服装の通年実施(働き方改革)

  • おくやみパッケージの導入

  • 「思いやりの空席」の活用によるコロナ対策と窓口改善

  • エクセルを活用した電子決裁の試験的導入

  • ワクチン接種事務におけるAI-OCRの活用

  • ファイルサーバーの効率的な運用

  • ペーパーレスの推進

  • 苦情や問い合わせの見える化

  • 時間外勤務及び休日勤務命令簿のデータ提出

  • 職員の会計能力向上と財政改善議論の深化

  • 子育て支援策の拡充

  • 正規職員補助業務の集約と会計年度任用職員の活用

  • 町民会館図書室を中心とした町民の読書活動の推進

上記の提案のうち、5件は保留や撤退となっているが、21の提案については採用されている。しかも、採用された提案のうち、8つの提案については迅速に実施へと向かっていった。
 
スピード感については以下の通りだ。

2022年1月 プロジェクトスタート
  ↓
2022年2月 実証実験開始
  ↓
2022年3月 正式に制度として運用スタート

グッジョブ運動は2022年1月にはじまったプロジェクトだが、およそ3ヶ月というスピードでまとめ上げたのだ。
もう一度言うが、プロジェクト責任者のほとんどが過去にプロジェクトを自分で回した経験はないのにも関わらずだ。
 
グッジョブ大会が終わってからグッジョブ運動に関わっていなかった職員はこう話す。
 
「気づいたらウェブ上の情報共有ツールでミーティングがどんどん進んでいって、チャットベースで、どんどん実施まで繋がっていったって感じで、そのスピードに驚いた。」
 
このスピード感にも、実は奥村氏の仕掛けがあった。26提案中、働き方改革としてグルーピングできる8つの提案を1つのプロジェクトにしたのだ。8人の提案者でプロジェクトチームを作ることで、お互いがお互いをサポートし合って、何かあったら集まって話し合うことができた。それ以外は、グループチャットでサポートし合い、実施まで8人で協力して進めた結果、周りが驚くほど、早いスピードで進んだのだ。
 
奥村氏は、この仕掛けについて、こう語る。

「1人でやり切るってむずかしいなと思って。最終的にはその人の思いが強ければ進むんだろうと思うけど、やっぱりサポートって必要だよねと思って、責任感のある人どうしで一緒にやっちゃえばいいと思ってこうゆう形にした。」
 
奥村氏は、「思いつき」と笑って語ってくれたが、この仕掛けの裏には、奥村氏の提案者への思いやりや、プロジェクトを早く進めるためにはどうすればいいか、試行錯誤した努力があったに違いない。
 
こんなエピソードもある。
 
大きな成果を残したグッジョブ運動を毎年開催してはどうかという声もあったそうだが、奥村氏はそれを受け入れなかった。理由は、「提案することが目的になってしまいそうだった」からだという。
 
やれないプロジェクトが溜まっていっては意味がないと、奥村氏は感じたのだ。グッジョブ運動のお手本としてきた愛知県の職員からも、「ただのイベントにならないように気をつけて」というアドバイスをもらっていたこともあった。
 
グッジョブ運動が再び南知多町に帰ってくるのは、今回のグッジョブ運動で提案されたプロジェクト全てが何らかの形で決着がついた時となりそうだ。

5.南知多町はグッジョブ運動をきっかけにより強固な組織体制へと変化していく


グッジョブ運動は、実は想定外の大きな成果を残していた。
 
その想定外の大きな成果とは、町長と職員の信頼関係の構築だ。
 
当初、地域課題を解決するために進めていたプロジェクトの一連の流れの中で、町長と職員の信頼関係の構築にはそこまで注目していなかった。
 
しかし、グッジョブ運動のある提案がきっかけで、町長と職員の信頼関係が強化され始めると、その重要性に気付かされることとなる。
 
町長と職員の信頼関係が構築されていった結果、町長も巻き込んで南知多の課題や問題についてより迅速かつ効果的に動けるようになり、より強固な組織体制へと変化していったのだ。
 
町長と職員の信頼関係を動かした、提案とは一体何だったのか?元々その提案に反対だった町長が、どのようにして職員を信頼できるようになっていったのか?

意外なところから始まったきっかけや、組織がさらに強固な体制に変化していく様子について、次の4記事目で詳しくお伝えする
 
***
本連載は、日本中の全ての自治体職員のみなさんと、支えていただける全ての方々にとって勇気が出る1つの事例となることを願い、作成しています