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縦割り行政を超えて実現した南知多の組織改革|見えてくる本質的な課題とは

名古屋市から1時間のリゾートと言われるほど、美しい風景に溢れている、南知多町をご存知だろうか?

日本の渚100選に選ばれている美しい白浜の「内海海岸」。
季節の花を楽しめる映えスポット「花ひろば」。
海の幸が豊富な離島「篠島」「日間賀島」。
南知多町の海岸沿いをドライブすれば、綺麗な夕日や富士山を見ることもできる。

美しく、魅力的な風景が溢れている町だ。

そんな南知多町の行政は、一時は行政特有の組織文化による深刻な問題を抱えていたが、いまその壁を打ち破りつつあり、官民共創やふるさと納税、服装のオフィスカジュアル化など数々の新しい取り組みを行える組織にまでなった。

しかもこれらのほとんどは、南知多の3人の職員が自ら企画し、民間アドバイザーの力を借りて実行されたものばかりである。

「縦割りのせいでプロジェクトを横断的に広く進めることが出来ない。」
「課題の解決に、縦割りは限界がきている」

「縦割りを横断的に」と、一言で言うのは簡単だが、組織の体制を変えることは容易ではない中で、縦割りの壁を取り払うために行った取り組みとは?
なぜ、3人の職員は、動かないといけないと思ったのか?そこに至るまでの熱き想いとは一体?

行政という特殊な環境の中で、組織改革を成功に導いた1つの成功例がここにある。
本記事を含む7記事にわたって話を進めていくので、ぜひ参考にしてほしい。

1.縦割り行政から大変革した南知多町の組織改革で行ったこと

「地域課題の解決をするのに、縦割りは限界がきている。」
「これからの時代は、プロジェクトマネジメントをできないとだめだ!」

地域課題を解決するためにプロジェクトを進めようとしても、縦割りに慣れ切った南知多町の職員ではうまくプロジェクトが進まないことが、南知多町の根本的な問題だった。

このことに危機感を覚えた3人の中堅職員が、組織改革を行おうと試みた。しかし、自分たちの力だけではうまくいかない確信があった。

そこで着目したのが、「民間からアドバイスを受けること」だ。2020年から取り組んでいる官民共創の一環として、民間複業人材登用を行い、行財政マネジメント総合政策アドバイザーを公募した。

その結果、Beth合同会社代表の河上泰之氏にアドバイスを受けながら進めることとなった。

河上泰之氏

デザイン思考顧問業を展開するBeth合同会社社長と、日本語教育のSmart Japanese合同会社の社長を兼務。慶應義塾大学大学院SDM研究科を優秀賞で修了。日本IBM、デロイトトーマツコンサルティングにてデザイン思考の専門家として活躍。

■主な実績
・経産省・特許庁 I-OPEN SUPPORTER
・長野県官民連携共創推進パートナー
・三重県伊賀市DXアドバイザー(非常勤特別職)
・愛知県南知多町 町長相談役 兼 行財政マネジメント総合政策アドバイザーの現職として活躍する

河上泰之氏にアドバイスを頂きながら段階的に以下のことに取り組んだ。

【南知多町の組織改革】

ただし、これらの取り組みは、決して順調に進んだわけではなかった。

トップダウン型プロジェクトリーダーの育成は、思ったような結果が得られず、苦戦した。しかし、その結果取り組んだボトムアップ型プロジェクトリーダーの育成では、若手が新しい取り組みにチャレンジするなど、今までにない姿が見られたり、これまでにはなかった部署間の連携などが見られた。さらに、河上氏のアドバイスを町長、職員双方が受けることで、町長と職員の信頼関係を強固にすることが実現した。

民間アドバイザーを登用し、上記の一連の取り組みの中でアドバイスをもらいながらその手法を学び、自分たちの組織に取り入れていった結果、得られた成果は以下の通りだ。

  • プロジェクトリーダーの育成に成功した

  • 町長が示す地域経営の方向性が職員に浸透した

  • 町長に職員の声が伝わり、取り入れてもらえるようなった

  • オフィスカジュアル化に成功した

  • ふるさと納税プロジェクトを推進できた

  • 会計年度任用職員のレンタル制度ができた

  • グッジョブなどを通じて職員も考えが変わり、町長も考えを変えていき、信頼関係ができた結果、町長の「日本一働きやすい町」を目指したマニュフェストができた

つである強烈な目的意識や動機について読み解いていこう。これらの成果が得られた背景には、

  • 強烈な目的意識や動機があったこと

  • 行政だけではなく、民間の協力があったこと

があったと言えるだろう。

本記事を含む7記事では、一連の取り組みや成果、その背景まで、詳細にお伝えしていく。

さっそく2章からは、成果が得られた背景の1つである強烈な目的意識や動機について読み解いていこう。

2.【本音】子供のため!友人のために!南知多町を残したい!一人の熱い思いから踏み出した組織改革の第一歩

「南知多町がなくなってしまったら、友達に申し訳ない」
「子供のために南知多町という名前を残したい。」

南知多の様々な問題を解決するべく動いた、その根本にあった本音は、これだ。

南知多町の改革に動いた職員は、主に3人。この3人の職員たちは、どのような想いから動き出したのだろうか?また、南知多町は、どのような危機的状況にあったのだろうか?

この章では、南知多町を本気で変えようと思った中堅職員のリアルな本音を伝えていく。

2-1.中堅職員が抱えていた未来への不安

「2040年問題」をご存知だろうか?政府は地方自治体に対して、以下のような警鐘を鳴らしている。

推計によると、2040年には全国896の市区町村が 「消滅可能性都市」に該当する。
うち、523市区町村は人口が1万人未満となり、消滅の可能性がさらに高い。

参考:国土交通省「地域消滅時代」を見据えた今後の国土交通戦略のあり方について

南知多町は、「消滅可能性都市」もしくは消滅する可能性がさらに高い市町村に該当する。

南知多町には、以下のような現実があるからだ。

  • 60年間人口が1人も増えていない

  • 税収が減少しこのままでは職員の数を維持できない

  • 空き家率が愛知県ナンバーワン

上記3つの項目を見れば、詳しい説明が不要なほど、危機的状況であることは一目瞭然だ。

特に深刻なのは、税収の減少がもたらす影響である。南知多町の歳入の6割近くを占めている、地方税と地方交付税。

地方税と地方交付税は、人口や所得の影響を受けるため、人口減少が続く南知多町の歳入は単純に考えて今後減り続けることになる。

人口が減少し、歳入が減り、財政悪化が進行するとどうなるだろうか?

当然、人件費を削減する必要に迫られるため、職員数を減らす必要がある。現在働いている職員を維持することが困難になる可能性すら十分に考えられるのだ。

「働く場所がなくなるかもしれない。」

南知多町の3人の中堅職員が感じた危機感は、まさにこれだった。

2-2.危機的状況なのに、何も変わらない南知多町

「30年後も現役で働いている自分たちの未来を想像した時に、果たして働く場所=南知多町役場はあるのだろうか?」

このような不安を感じた背景には、2-1.で伝えた人口減少などの問題以外に、職員の世代間のギャップがあった。

これから30年後も現役で働いている自分たちと、10、20年後には定年を迎えるであろう幹部級職員との間には、危機的状況に対する認識や感じ方のギャップがあったのだ。

ジリジリと町が貧しくなっていくことにリアリティがあるにもかかわらず、組織全体が未来に危機感を持たず、何もやろうとしなかった。何も変わらないのは幹部級職員だけではなく、南知多町役場で働くほとんどの職員で、危機感は皆無であった。
組織改革を進めた3人の中堅職員は、この点に不安や苛立ちを感じずにはいられなかった。

ただし、語弊がないように正確にお伝えすると、悪いのは幹部や職員ではない。
悪いのは行政独自の文化であり、そういった文化が必要となる行政に求められる「役割」が悪いのである。

地方行政は、国や県が求めること、つまりある程度決まったことを周囲と比較して大差ないような効率で実行することが求められる。
その結果として、ジブリ作品のトトロでは未舗装の道路や井戸を汲む生活が描かれたが、現代では津々浦々まで舗装された道路を移動でき、蛇口をひねるだけで飲める水が出てくるようになった。悪いことばかりではないのだ。
これが過去行政に求められてきたことで、求められることに対応するために組織は縦割りになり、相互に効率を重視するために仕事を押し付けあうことが必然となった。そういった環境が長く続けば、人間はその環境に適応してしまう。そして「お役所」という名前の文化が生み出される。

また行政では昔からの仕事は終わることなく継続する。ごみ収集や水道、保育に学校、介護や福祉。住民票の発行に、新しく道路ができて家が建てば番地や地図も更新する。これらが明日突然サービス終了します、というわけにはいかない。
こういった昔から続く古い仕事によって職員の考え方や行動が古いままに固定化させられてしまう。
これこそが行政の変革を阻んでいる根っこだ。

仕事や共に働く顔ぶれ、場所が変わればまだ個人の変化はしやすいかもしれないが、残念なことに全て固定されている。
その中で、他人に変わってもらうという「無理ゲー」がこそが、私達が立ち向かった勝負である。

繰り返すが、行政の仕事は一定の期間で終わる仕事は少なく、継続し続ける為の創意工夫が求められる仕事が大半なのだ。
もちろん、一定期間で成果を出せというようなプロジェクトマネジメント能力は求められないので、身についていない。そのことを誰が咎められるというのだろうか。

だが。
「なので、できなくて当たり前。」
そう苦笑いして話題を変えられる時代は終わってしまった。それをコロナ初期の頃の給金やワクチン対応で嫌というほどに体感させられたのも、また行政という仕事だった。

好むと好まざるとに関わらず、時代は変わり行政は民間企業とさえも競い合わねば、ふるさとの名前が地図から消える。通った学校が統廃合でなくなるだけでも大変な寂しさを感じるのに、町の名前が地図から消えるのはどれほどのことだろうか。
そんな状況になってしまった。そんな状況だということを、コロナ対応で嫌というほどに体感させられた。

そんなコロナ対応の中でも、機敏に動けた職員がたくさんいた。
それをみて3人の中堅職員たちは、「今変えなきゃ」と立ち上がった。いまを逃せば、永遠に機会は訪れない。

友達のため。家族のため。そして、何よりも自分が後悔しないために。


3.南知多町が解決しなければいけない課題

人口減少、財政悪化、空き家の増加…
これらの南知多町を存続するために、解決するべき本当の課題は一体何か?

南知多町は、自分たちの自治体が解決しなければいけない課題を、以下の流れで明確にした。

社会課題をこのままの仕事のやり方では解決できない現実に直面

官民共創でプロジェクトを進めていく働き方に変えよう

しかしプロジェクトマネジメントできる人材がいない

課題は「プロジェクトマネージャーの育成」だ!

ここからは、南知多町の課題が明確になるまでの、一連の流れをご紹介しよう。

3-1.職員が減る未来が見える一方で、増え続ける社会課題

南知多町の社会課題は、増加し続けている。

具体的には、以下のような課題だ。

2章でお伝えしたように、職員が減る未来が見える中で、今のままの仕事のやり方では増え続ける社会課題を解決するのは非常に困難だ。

社会課題を解決できないと、南知多町に住んでくれる人が減ってしまう。そうすると、町が合併されたり、なくなってしまう可能性は高くなる。

この気づきからたどり着いたのが、社会課題の解決の仕方を今までの方法から変えることだった。

3-2.プロジェクトを横断的に進めたい!一方で、簡単には崩せない縦割りの壁

南知多町は社会課題を解決するために、官民共創という構想にたどり着いた。

これまでにない民間企業との取り組み。新しいプロジェクト。大きな一歩を踏み出したかのように見えた南知多町の職員は、ここで一歩踏み出すことの難しさに直面する。

そこには、「縦割り行政」という、大きな壁が立ちはだかっていたのだ。

そもそも、横断的にプロジェクトを進めた経験がある職員がいなかったため、ノウハウがわからなかった。同時に、縦割りに慣れ切った役場職員たちでは、プロジェクトとは名ばかりで、なかなか話が前に進まないことが当たり前になっていた。

「縦割りを横断的に」

言葉で言うのは簡単でも、実際にはとても難しいことだった。

今いる管理職をトップにおいてプロジェクトを進めようとしても、全く進まない。部長は課長に、課長は係長に仕事を投げて話が終わると言う光景は、縦割りの組織ではよく見られる光景だが、それは南知多町でも同様だった。

実際、官民共創の取り組みにおいて、連携協定を結んでから実際に始まるまで数ヶ月間空白があったプロジェクトもある。

「プロジェクトをチームで横断的にやっていこう」と声をあげるが、いざ始まると自分たちがそれを管理しようとしないのは、ある意味縦割りの組織では普通なのかもしれない。

結果、横断的な組織体制のプロジェクトはことごとく失敗した。誰もマネジメントできずに、結局何も結果が残らないけれど、とりあえずやりましたという報告だけで終わることが頻発したのだ。

3-3.必要なのはプロジェクトマネジメントができる人材の育成だと気づいた

南知多町の社会課題を解消するためには、官民共創の取り組みでプロジェクトを推進することが一役買ってくれるということに気づいたのに、縦割りに慣れきった組織にはプロジェクトを進める人材がいない。

また、人材育成・DX・公共施設・財政再建といった4つの柱において多くの新規プロジェクトを画策している南知多町は、これらのプロジェクトを円滑に進行するために、町職員のプロジェクトマネジメント能力を向上させる必要があった。

この事実から、

「プロジェクトマネジメントができる人材が必要だ」

という課題に気づくことができた。気づけたことは、まさに南知多町の勝利の一歩と言えるだろう。

課題は明確になった。

ここから、マネージメントして実行レベルに持っていく能力を組織として身につけるべく、プロジェクトマネージャーを育成するための仕組みを作るところから着手することとなる。

4.大いなる一歩!トップダウン型プロジェクトマネジメント始動

課題が明らかになった南知多町は、組織改革をするべく動き出した。

その取り掛かりとして、民間複業人材登用を行い、Beth合同会社代表の河上泰之氏を行財政マネジメント総合政策アドバイザーとして登用した。アドバイスを受けながら取り組んだ1つ目のプロジェクトが、「トップダウン型プロジェクトマネジメント能力の向上プロジェクト」だ。

このプロジェクトを通しては残された課題も多く、詳しい内容は2記事目に続くが、ここではプロジェクトの概要と、得られた成果についてお伝えしよう。

4-1.管理職におけるトップ型プロジェクトマネジメント能力向上プロジェクト概要

このプロジェクトは、幹部職員が河上氏のアドバイスを受けることで、プロジェクトマネージャーとしての能力を向上させることを目的として実施された。

具体的には、部長クラスがトップに立ち、その下に課長級の職員がついて部長課長が率先して組織の内部がより効率化するために、率先して動くように取り組んだ。

そうすることで、多種多様な地域課題を解決するために、縦割り行政を越え、様々な部署が連携して多くの政策分野を横断的に取り組むことを目指した。

幹部級職員のプロジェクトマネージャーとしての能力を上げることで、プロジェクトを円滑に進め、縦割り行政の壁を取り払おうというのが目的だった。

4-2.管理職におけるトップ型プロジェクトマネジメント能力向上プロジェクトで得られた成果

プロジェクトは成果が全く出ていないわけではないが、成果があったと言い切るには程遠い状況だと言えるだろう。

行財政のマネジメントの各部会の動きは相変わらず鈍い。しかし、徐々にではあるが着実に、幹部級職員のプロジェクトマネージャー能力は向上していると言えることから、成果がなかったというわけではないと言えるだろう。

また、河上氏から提供されたマネジメントシートの基本8項目で構成されるプロジェクトシートを活用し、各部長のプロジェクトマネージャーとしての能力向上を図ることができた。しかし、そこに至るまでには様々な問題があった。

結果的に思うような成果が得られなかった「トップダウン型プロジェクトマネジメント能力の向上プロジェクト」。ただ、このプロジェクトがなければこの先の大きな成功はなかったし、このプロジェクトのおかげでさらに大きな問題の本質に気づくことができた。

次の記事では、南町役場の職員と河上氏のやりとりも含め、課題や得られたものについてさらに詳しくお伝えしていく。


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