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社会課題を、ビジネスチャンスへ。南知多町が取り組む「持続可能なまちづくり」とは?

2015年に国連でSDGs(持続可能な開発目標)が採択されて以降、社会課題に対する人々の意識は高まっています。「健康や福祉」「海・陸の豊かさ」「住み続けられるまちづくり」など、身の回りには解決すべき課題がたくさんあります。

それは、南知多町も例外ではありません。知多半島の南部に位置する南知多町は、愛知県のリゾート地としての側面を持つ一方で、人口減少と高齢化の進行により、空き家問題をはじめとするさまざまな課題を抱えています。

その解決策として、南知多町が取り組んでいるのが官民共創です。行政と民間が協働でプロジェクトを推進する官民共創において、南知多町ではどのような手法を採用し、地域の課題解決につなげているのか。南知多町のまちづくり推進室の担当者に、お話を伺いました。

南知多町というまちを守り続けるためには、これまでのやり方だと限界があった

南知多町は、都心部である名古屋市まで車で約60分、中部国際空港まで車で約40分と、ほどよい距離感のまちですが、愛知県内における空き家問題の先進地でもあります。

2018年時点で、南知多町の空き家率は県内ナンバーワンを記録し、5軒に1軒の住宅が空き家となっています。この数値は、全国の市区町村のなかでもトップ100にランクインするほどの深刻な問題です。

この背景には、1961年から60年以上も続く人口減少があります。全国的な出生率の低下や町民の移住などにより、空き家は年々増加しており、高齢化の進行によって空き家予備軍も控えている状況です。

そして、人口減少による影響は、空き家問題以外にも及んでいます。具体的には産業基盤や社会保障などの公共・民間の問題と、歳入減少による財政状況の悪化です。

公共・民間の問題

公共の問題としては、インフラや社会保障の維持、防災対策の実施が挙げられます。

個人や民間の問題としては、高齢者・空き家問題に加えて、産業振興という地域経済の発展を支える産業の問題が浮き彫りとなっています。

さらに人口の減少によって、南知多町における社会課題は増加の一途を続けており、現状の予算規模を維持しても解決することは難しい状態となっていました。

財政状況の問題

南知多町の歳入は、地方税と地方交付税が全体の56.9%を占めています。この2つは人口や所得の影響を受けるため、人口減少が継続すると財政状況のさらなる悪化が予測されているのです。

そして、人口減少と財政悪化が進行した場合、事業費や職員数の削減につながってしまい、現状の維持すら困難になってしまいます。このままでは市町村の合併により、南知多町というまちを存続できなくなる可能性すらありました。

しかし、全国に1,718ある市区町のなかで、南知多町はたった1つしか存在しません。自治体として、南知多町というまちを存続させるために、自分たちに何ができるのかを、役場の職員たちは模索していました。

限られた予算の中で成果を出すことは極めて難しい状況であったことから、職員たちは新たな発想を考える必要がありました。そしてたどり着いたのが、民間と協働で課題解決を目指す「官民共創」という取り組みです。

官民共創とは

官民共創は、行政や民間(個人・企業など)が協力し、社会課題の解決を目指す取り組みで、官と民のオープンイノベーションとも呼ばれています。

単独では難しかった課題でも、民間とパートナーシップを締結することができれば、新しい価値や解決策を生み出せるのではないかと考えました。特に民間企業にとっては、社会課題が必ずしもマイナス要素になるわけではありません。

飲酒運転を例として考えてみましょう。行政からすると、飲酒運転はまちの安全を確保するうえで無視できない問題です。しかし、その対策は公共交通機関やタクシーなど、飲酒後を前提としたものに限られていました。

一方、民間企業はどうでしょうか。今回の例であれば、同じ飲酒運転の対策であっても、民間企業はノンアルコールビールを販売するなど、行政とは異なる対策を実行できます。

このように、官民共創を通じて民間企業の視点を取り入れることで、社会課題をビジネスチャンスとして捉えることができるのではないかと、南知多町の職員は考えました。

地域の課題を包み隠さず公開することで、コミュニティ拡大を目指す

官民共創という構想にたどり着いたものの、どのように進めるかという点でプロジェクトは難航していました。「社会課題を解決する」といっても、民間企業にとってどの社会課題がビジネスと結びつくのか、そもそも民間企業は地域の課題を魅力に感じるのかなど、仮説を実証する術がありません。

そんなとき、たまたま愛知県から持ちかけられたのが「あいちスマートサスティナブルシティ共創チャレンジ(2020年)」への参加でした。これは世界のモノづくりをけん引してきた愛知県が、スマートサステイナブルシティに挑戦するため、新たな共創パートナーを世界から募るイベントです。

このイベントの特色は、民間企業からアイデアを募ることができるという点でした。社会課題の解決方法を模索し、官民共創という構想までたどり着いていた南知多町にとって、この話は願ってもないことです。

そして2020年、南知多町はチャレンジオーナーとして、あいちスマートサスティナブルシティ共創チャレンジへの参加を決意しました。

南知多町が実際に公開した地域の資源・課題

空き家・空き地・遊休農地など、地域が抱えるセンシティブな問題を包み隠さず公開することで、民間企業とのコミュニティを形成し、新たな知見の獲得を目指しました。

とはいえ、2020年開催のあいちスマートサスティナブルシティ共創チャレンジでは、名だたる企業が参加するなかで、南知多町は唯一の地方自治体。さすがに大きな反響はないだろうと考えていました。

発足から3年で18件の官民共創が実現

予想に反して、あいちスマートサスティナブルシティ共創チャレンジ(2020年)で、南知多町は大きな反響を得ました。全77社92件の提案のうち、なんと29社32件の提案が南知多町に寄せられたのです。チャレンジオーナーのなかで最も多くの提案を獲得する、期待以上の結果となりました。

さらに国内企業にとどまらず、シンガポール、インドネシア、台湾、マレーシア、フィリピン、カンボジア、オーストラリア、カザフスタンの企業からも提案があり、官民共創への関心の高さを実感することにつながりました。

32件の提案から厳選を重ねたうえで、ANAホールディングス株式会社をはじめとする4社の提案を採用。各社とパートナーシップを締結し、官民共創への本格的な取り組みがスタートしました。

インドネシアのスタートアップであるQlueと実証実験をサポートする株式会社ICMGとの覚書締結式の様子

同イベントへの参加をきっかけに、「民間企業にとって社会課題はビジネスチャンスになる」ことを確信した南知多町は、以降も官民共創によるプロジェクトを続々と立ち上げています。

主な官民共創の実績

2022年8月には新たな共創基盤として、​​社団ちたクラウドファンディング(構成員:半田中央印刷株式会社、株式会社CAC、知多信用金庫)とパートナーシップを締結。クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」を活用し、地域活性化や地域課題の解決を目的としたプロジェクトを支援する「ちたクラウドファンディング」と連携することで、地域でチャレンジする人を応援する仕組みを立ち上げました。

同年10月には、株式会社クラッソーネとの空き家対策事業の功績が認められ、国土交通省の第34回「住生活月間」において住宅局長表彰を受賞しています。

また、官民共創の事業創出に向けた取り組みは南知多町の役場内にも波及。2022年に実施した職員アンケートでは、職員目線での課題定義や情報提供が125件も集まりました

さらに官民共創における連携の円滑化を目的に、グループウェア「サイボウズ Garoon」での情報共有を実施。民間から相談が寄せられた際、関連部署との連携がスムーズに取れるようになっており、ここからプロジェクトが生まれることもあるようです。

官民共創で社会課題を解決するために、いかに環境を整えるか

2023年3月時点で、南知多町が実現した官民共創は18件。一見すると順調そうに見える官民共創ですが、ここまでの道のりは険しいものでした。

南知多町ではまちづくり推進室が官民共創の旗振り役を担っているものの、かなり属人的な動きをしており、これが原因で官民共創の規模を拡大することが難しくなっています。残念ながら、現時点では全ての職員が官民共創を自分ごと化し、積極的にアクションを起こすまで至っていません。

また、人口減少による財政状況を考えると、官民共創は労力がかかる分、人的コストと見合わなくなる可能性が出てきます。だからこそ、南知多町の職員がモチベーションを上げて官民共創に取り組むには、財源の開発が欠かせません。

この打開策として、南知多町はクラウドファンディング型のふるさと納税に着目しています。これは通常のふるさと納税と異なり、プロジェクトの応援に特化した仕組みで、ガバメントクラウドファンディングとも呼ばれています。

ふるさと納税への注力によって、町内の企業の収益を増やすだけでなく、南知多町への企業誘致としても効果を発揮するでしょう。加えて役場の効率化と民間企業の活性化を推進し、官民共創を継続するための環境を整えていくことが、南知多町のネクストステップになります。

人口減少が続く地方にとって、社会課題の解決は容易ではありません。自治体のみだと、対処が厳しい内容も多いでしょう。

だからこそ、持続的なまちづくりを行うためには、民間と手を取り合い、協力して課題解決に取り組むための仕組みが必要です。地域の課題をオープンにし、官民共創を促進することで、民間のパートナーを見つけやすくなるでしょう。

それこそが、社会課題を解決するための第一歩です。


WEBライター 安藤 修平

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